第23話 道を開く

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第23話 道を開く

 ゴブリンのスタンピードがお起り、領主から出動要請が出た。  しかもEランク以上は強制的に参加だ。  ギルド内はざわついた。 「え、Eランク以上からだと?」  ザワ、ザワ、ザワ 「そんな馬鹿な」 「俺はまだ死にたくない」 「静かに!静かにしろ~!」  ギルド長と呼ばれた人が声を出す。 「俺はここのギルド長パウルだ。ただし招集は男のみ、女は参加する必要はない」 「ゴブリンだものね」 「それはそうか」 「良かった私」  女性の冒険者がほっとしたように言う。  俺もほっとしている。 『紅の乙女』のメンバーが参加し、ゴブリン達に狙われたら守り切れる自信はない。 「良かった。みんな」 「何が良かったのよ。エリアス1人でどうするんだよ~」 「大丈夫だよ、オルガさん。俺は防御力が高いのは知ってるだろ」 「そんなこと言ったって」 「必ず戻ってきますから、みんな」  そう俺は言いながらオルガさん、ルイディナさん、パメラさんの顔を見た。  みんな泣きそうな顔をしていた。   「よし、冒険者ギルドのリーダーはコンラードだ。みんな言う事をよく聞けよ」 「俺がギルド長パウルさんより紹介のあったコンラードだ。無理はせず生きて皆で帰って来よう」 「「「おぉ~~!!」」」  参加する人数は俺を含めてここにいる男性24人しかいない。  後の人はどうしたんだろう?  冒険者て、これだけなのか?  「今、街にいるにも拘わらずギルドに来ないやつは、ギルドの身分書を剝奪する」  そうギルド長パウルさんが言った。  そうだよな、しらばっくれることが出来るなら俺もそうしたい。  それに聞いたところによると丁度B、C、Dランクのパーティは商隊の依頼で遠征しており人が居ない時期だったらしい。  以前、依頼をお願いしたCランクパーティー『赤い翼』の人達が居ないわけだ。 「よ~し。まずは城門に向かって、騎士団と合流する。行くぞ」  コンラードの後に続いて歩き出す。  俺は何度も後ろを振り返った。  そして見送りに出てきている『紅の乙女』のメンバーに小さく手を振った。  城門に着くと騎士団の人がすでに待っていた。  コンラードさんが騎士団の方に向かい、偉そうな人と話している。  しばらくしてから何やら揉めている雰囲気になった。 「そんな馬鹿なことがあるか!」  コンラードさんの怒鳴る声が聞こえた。  そしてギルドメンバーのところに戻り、こう言った。 「みんなよく聞け、ゴブリンの数は約500。どうやらキングが居る可能性がある」 「キングだと!」 「あぁ、やっぱり」 「思った通りだよ」  みんなそれぞれに、落胆の声をあげた。 「それからまだある。こちらの数は騎士団700。そして俺達24人だ」 「えっ!」 「それだけなのよ!」 「全滅覚悟の戦いか」 「みんなよく聞け。この街の騎士団は1,000人もいない。警備に300人残すと出せるのは700人だとさ」  なに?  そんなに少ないのか?  街と言ってもそんなに大きくないことは分かっていたけど。   「もう1つある。一体づつ相手にしていてはゴブリンを殲滅しも、こちらも壊滅してしまう。だからキングを狙い先に倒すそうだ」  そしてコンラードさんは間を開けてこう言った。 「騎士団は、キングとの戦いに備え戦力を温存する。そのため、冒険者の俺達がそれまで道を切り開けとさ!」 「うぉ~そんな馬鹿な!」 「まだ俺は子供が小さいんだ」 「帰らせてくれ~!」 「みんなの気持ちは分かる。だが街が存続の危機なんだ。逃げた場合は逃亡罪となり重罪だとさ」 「「「そんな馬鹿な!」」」 「どちらにしても死ねと言うのか」  みんな思い詰めた暗い顔になる。  それはそうだろう、玉砕覚悟なんて。  進んでも戻っても、死が待っている戦いなんてやってられない。 「バルタザール騎士団長、話が着きました」 「ほう、そうかナウム副長。で、どうだった」 「はい。一体づつゴブリンを倒していては消耗が激しい。キング狙いで先に倒す作戦を彼らに話したところ、冒険者が率先して道を切り開く間に、キングを倒してほしいと言っておりました」 「なんと!そのような事を。尊い考えだ。自分達のことより街のことを思うとは」 「はい、彼らもこのアレンの街を愛しているようです」 「それならこの戦いが終わったら、彼らにも報いてやらねばならぬな」 「もちろんでございます」 (冒険者のやつらをおとりにして少しでも奴らの数を減らす。そしてあわよくキングでも倒せば出世ができる。庶民が何人死のうと構うか。せいぜい役に立ってくれよ)  卑屈な思いで俺達は進む。  開けた場所に出た。  そこで俺達は奴らが来るのを待つ。  やつらが横に広がってくれればくれるほど、突破する厚みが薄くなる。  少しでも広がってくれることを願うのみだ。  そしてキングまでの道を俺達が開く。  そこまでが仕事だ。
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