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第24話 決戦前
ゴブリン達を見に行っていた騎士団の斥候が戻ってきた。
城門でコンラードさんと話をしていた、騎士団の人がこちらにやってきた。
「リーダーのコンラードはいるか」
随分、高圧的だな。
コンラードさんがやってきた。
「なにか変化がありましたか、ナウム副長様」
「後30分くらいで奴らが見えてくるだろう。まず騎士団の弓兵で迎え撃つ。貴様たちは合図を出したら正面突破で突き進め。その後を騎士団が続いて行くからな。せいぜい役に立てよ」
そう言い残すと踵を返していった。
「嫌な奴だな」
誰かがそう言った。
「貴族の奴らは俺達、冒険者を見下しているからな」
「あぁ、定職に付けない半端物だってな」
「みんな元気を出せ!そんな顔をしていたら、勝てるものも勝てないぞ」
コンラードさんが声を出し、みんなを励ます。
「でもよ、俺達だけで正面突破なんて出来るのかよ」
「そうだ、無理だ」
口々にみんなが言う。
「正面を進んで行けば、そこにキングが居る可能性があるんだ。それに俺達だけじゃない。騎士団も居るんだ。大丈夫さ」
「でもよ、奴らだって死にたくないだろ。俺達なんか庇うわけないさ」
「「「そうだ、そうだ」」」
彼らは口々に不満を言う。
「それに他の奴らのランクが分からねえ。この中にAランクはいるのか?」
「俺だけだ」
コンラードさんが言った。
「じゃあBは?Cは?」
そして分かったことは、Aランク1人、Bランク4人、Cランク6人、Dランク9人、Eランク4人だった。
「これじゃあ、話にならねえ!」
Cランクでレベル20前後、コンラードさんのAランクでレベル30前後だ。
これで突撃なんて無謀だ。
一瞬で飲み込まれる。
みんなの顔に絶望が浮かんだ。
まるで捨てられた子供のように。
俺は考える。
俺に出来ること、出来ないこと。
そして生き残るための工夫を。
絶対にみんなの元に帰るために。
ドンッ、ドンドン。ドンッ、ドンドン。
奴らの姿が見えてきた。
緑色の肌、子供の様な体形。
つぶれた顔に平べったい鼻。
大きく裂けた口に小さな牙が上向きに生えていてる。
ゴブリンだ。
そして広い場所に出たやつらは、横に広がった。
今の広がり方なら突っ込んで、抜けるまでのゴブリンは70~80匹か?
もっと横に広がれ。
そうだ少しでも突破しやすいように。
「嫌だ。俺は嫌だ~」
誰かがそう呟く。
それが感染したように、みんなが臆病風に吹かれる。
「そうだ、死にたくない」
「死ぬ、死ぬ」
このままでは不味い。
俺はできるだけ大きな声を出して言った。
「みなさん、俺には街で待っていてくれる人達が居ます。だから生きて帰ります」
そう宣言した。
「みなさんには街で、待っていてくれる人はいないのですか?ここで頑張らなければ、街も奴らにやられ大切な人も奪われてしまうのですよ」
「「「そ、そうだ」」」
「そうだった。忘れていた」
「あぁ、そうだったな。生き残ることを考えないとな」
「むやみに突っ込むのではなく、例えば3列になって前や横など互いの死角を補い合ってはどうでしょうか?」
「おぉ、それは良い案だ。みんな互いに離れず、お互いをかばい合うんだ」
コンラードさんが賛同してくれた。
「配置は攻撃と防御を考え俺とBランク4人、Cランク6人、Dランク3人、Eランク4人、Dランク6人の順だ。良いな」
「「「おぉ~~!!」」」
「そうだ、俺は生き残るぞ」
「俺もだぜ!」
よかった。みんなの士気が上がった。
おれの名はコンラード。
15歳で冒険者になり、オレンの街では10年になるベテランだ。
ゴブリンのスタンピードがおき、俺達は騎士団に組み込まれた。
騎士団のナウム副長は信用できそうもない男だ。
冒険者を見下しているのがありありと分かる。
こんな生きるか死ぬかの時に、そんなことをしている場合なのか?
そして騎士団の案は数もゴブリンと拮抗しており、一体づつ倒していてはゴブリンを殲滅しも、こちらも壊滅してしまう。
そのため、キングを狙い特攻をかける。
その道を開くのが俺達、冒険者いうのだ。
馬鹿なことを。
国を守るのが騎士団の仕事ではないのか?
俺達は捨て駒なのか?
そしてゴブリンの大群が見えてきた。
それは壮大だった。
今までゴブリンを倒しても、せいぜい2~4匹だ。
パーティーで当たれば大した事はない相手だった。
だが500匹近くの大群となれば別だ。
みんなそれだけで飲まれてしまう。
そんな時だ。
エリアスと言ったか。
まだギルドに登録して、2週間も経っていないと思われる少年だ。
更に他のパーティーと協力してだが、トロールやバグベアを倒している。
だが冒険者になりたてのFランクが、はたしてそんなことが出来るのだろうか?
そしてみんなが絶望的なお顔をしている時に、彼は言った。
「街で待っていてくれる人達が居る。だから生きて帰る」と。
「3列になって前や横など、互いの死角を補い合う」戦い方を提案してきたのだ。
彼は怖くないのか?
どれほど冷静なのだろうか?
そして彼の言葉は不思議と、生きる希望や力が湧いてきた。
他の冒険者も同じように、不安が取り除かれ自信に満ちた顔になっている。
黒髪、黒い瞳の美形の少年。
なぜか人の心を引きつけ夢中にさせる、雰囲気を持つ不思議な少年だ。
【スキル】魅力が発動していた。
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