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イベリス ~甘い誘惑~
仕事帰りの道は長い。
立ちっぱなしの医療事務の受付は気疲れで一日を終える。
その帰りの電車は同僚と一日の愚痴や一時の出来事を報告し合う。
今日も同僚の口からは愚痴がこぼれる。
会計が長引けば文句を言う患者が出るのも日課。
その対応に疲れたらしい。
「家に帰ったらとことん飲むわ」
「明日に響かせないでね」
「わかってるよ。癒しが欲しいわ」
降りる人が多い駅に着くと電車の大半が出て行き余裕が生まれる。
そのスペースに解放感を感じるのか同僚は小さく背中を伸ばしてため息をつく。
「茉莉は癒してくれる彼氏がいるからいいよね。確か塾講師でしょ。頭はいいし、優しいんでしょ? 羨ましいわ」
同僚が言った中の彼氏という言葉に胸を躍らせる。
今から六年前。
不良だった私を外に導いてくれた人。
私が一目ぼれした人。
初めて名刺を見た時に載っていた文字、桧山亜貴。
私は一目ぼれを夢ではなく現実に変えた。
だから付き合って三年たった今でも響きは愛しくてたまらない。
亜貴君を考えながら同僚と話しているうちに最寄りに着き私は駅のホームを足早に去った。
少しでも一緒にいる時間が欲しいから。
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