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帰り道、私は自宅ではなく亜貴君の家に向かっていた。
片手には駅前のケーキ屋の袋。
甘いのが好きな亜貴君はこの店の袋を見ると興奮してくれる。
その時の笑顔が好きで余裕があるとその店に寄っていた。
今日はアイシングクッキーが袋の中に入っている。
携帯で時間を見ると午後五時。
早く上がれた今日なら会えるかもしれない。
亜貴君は塾講師。だから学生がフリーになる時間に仕事に行くことになる。
自然と私との時間が減るのだ。
それでも七時以降の中学生を担当する日は運が良ければ話す時間がとれる。
だから私はその甘い時間を楽しみにしていた。
亜貴君のマンションのエレベーターから降りて亜貴君の部屋に向かう。
口元を緩ませながら紙袋を見ると目の前の扉が勢いよく開いた。
「わっ!」
私が驚いて身を引くと同時に慌てた声が耳に響く。
そこにはスーツ姿に鞄を持った亜貴君がいた。
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