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「びっくりした」
安堵する表情を見せて亜貴君はドアを押さえて中に入れてくれる。
「今日は少し話せるかなって思ったんだけど、もう行くの?」
「あ、うん。ごめんね。今日、振替の子が六時半に来るからもう行かなきゃ」
「そっか」
すぐに元気な顔をして応援の言葉をかけられればいいのに、私にはそれができない。
まだ成長しきれていないのか。
二十四歳にもなって幼いなと我ながら思う。
「最近、あんまり話せなくてごめんね。今度時間作るから」
私の表情を読み取ってくれたのか亜貴君はいつもより優しい微笑みを向けてくれる。
そんな顔を見たら何も言えなくなる。
でもその顔が好きだった。独占しているように感じて。
「あ、これ。買ってきたの」
私は紙袋を亜貴君に差し出すと無邪気な笑顔を見せてくれた。
「ありがとう! このお店、めっちゃ美味しいんだよね。しかもクッキーじゃん。帰ってきたら食べよ」
「じゃあ、私は帰るね。頑張って」
名残惜しい。でも少しでも大人な対応がしたい。
六歳上だと甘やかされることが多い。
だからそれ相応の女性になりたいのだ。
「ありがとう。あ、鍵忘れたわ。ごめん、ここでバイバイ」
鞄をあさっている亜貴君を目に焼き付けて私はエレベーターに乗った。
次に会えるのはいつだろう。
甘えるのはどれだけ我慢すればいいのだろう。
そんなことを考えながら私は自宅までの道を歩くのだった。
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