84人が本棚に入れています
本棚に追加
土曜日の夜。
私は仕事帰りに本屋に立ち寄った。
明日はようやく亜貴君と二人の時間を過ごせる。
日曜日は塾も休み。
私も仕事がないため時間がとれた。
だからその日の昼食は自分の料理を食べてもらいたかった。
何度か献立を考えてみたけれど、どれも彩などを考えると難しい。
その参考に料理本を探そうと本屋に入ったのだ。
本屋に入って迷いが生まれたのは料理本コーナーを見てから。
多数の料理本は素人には見分けがつかずどの本を参考にすればいいのかわからなかった。
何度もめっくては戻し、違う本を手にとる。
土曜日でも夜のせいか人は少ない。
真剣に選ぶにはいい時間帯だったのかもしれない。
それでも頭が働かないのは焦りを誘う。
「何かお探しですか?」
横から綺麗な声が聞こえて顔をあげると、可愛らしい顔をした女性店員が私の顔を覗いていた。
「あ、どの料理本がいいかわからなかったから長居してしまって」
「そうでしたか。今は人が少ない時間帯なのでゆっくり選んでください。お邪魔してすみません」
「いえ……」
姿勢や言葉遣い、綺麗な声に可愛らしい顔立ち。魅力が溢れた彼女だからなのだろうか。
仕事に戻ろうとした彼女の後ろ姿に声をかけた。
「あの、どの本がおすすめとかありますか?」
振り返った彼女は嫌な顔一つせずに微笑んだ。
綺麗な手で目の前の本を取り出すと一つ一つ説明をした。
季節の野菜が記載されているか。
一つの材料につきいくつ調理法が載っているか。
当たり前のようなことでも複数見つかれば選ぶのは簡単だった。
一度もこの本がおすすめだと言わないのは平等に見る店員のマナーを守っているからだろう。
会計を済ませる私に彼女は微笑みを浮かべて会釈した。
可憐な子だ。
少し話をしてみたいな、なんて思いながら彼女に会釈を返した。
最初のコメントを投稿しよう!