イベリス side 亜貴

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イベリス side 亜貴

時計を見ると午後三時だった。 駅から塾までそう遠くない。 普段なら自宅から塾に行くことができ、大して時間もかからない。 今日は試験監督の手伝いに行っていて今最寄りに着いた。 その駅から見えるのは気が重くなる雨だった。 小雨なら走る元気もあったが、雨と車の音で支配されるような環境だとどうも足が動かない。 「どうすっかなー」 「先生?」 空を見上げた時、懐かしい声が聞こえた。 何度かその声を求めたことがあるような気がする。 声のもとを探せば女の子が立っていた。 記憶よりも女性らしくなった女の子が。 「やっぱり桧山先生だ!」 「……瑠華ちゃん?」 間違いなかった。 音成瑠華。 昔担当していた生徒だ。 確かあの時は16歳で今から六年前。 大人になった彼女は可愛らしさを残す綺麗な女性になっていた。
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