イベリス side 亜貴

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声も上手く出なかった。 いつも能天気で明るさが売りの自分が。 それは彼女がただの生徒じゃなかったから。 別れを告げられず、未来どころか行方まで見えないところに消えてしまった女の子。 その他の感情は言葉にならなかった。 「久しぶり、先生! 元気だった?」 「う、うん。久しぶり」 元気だった? と聞きたいが言葉がつまる。 彼女は突然姿を消した。 あの時、彼女の姉の音成友華も俺の担当生徒だった。 その二人が一つの連絡もなく消えてしまった。 退会手続きが進みやすいように準備されて。 「先生、もしかして傘ないの?」 彼女の声でふと我に返る。 そこにはやはり綺麗になった彼女がいる。 「そうなんだ。降ると思ってなかったから。まあここから塾だから走れば何とかなるかなって」 さっきまで重たく考えていた案も軽々と言えてしまう口が自分の物だと理解しがたい。 「まだあの塾にいたんだ! じゃあ一緒に行こう! あ、傘は先生が持ってね。身長差で届かないから」 いつの間にか俺の横に来て彼女は傘を広げた。 どうしてだろう。 再会できたのは喜びで、素直に今の彼女を知りたい。 それなのにどうして姿を消したのか。どうして何も言ってくれなかったのか。 どうして俺を…… 「先生、どうしたの?」 不思議そうに彼女は顔を覗き込む。 男と女の距離感なんてものを忘れて。 「じゃあ、お言葉に甘えて。久しぶりだから話したいんだ」 「うん。私も。先生にまた会えて嬉しい。ずっと気になってたから」 何の気なしに彼女は言っているんだろう。 それでも気を持とうとしている自分を抑えて距離も声も魅了する言葉も心の奥にしまいこんだ。
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