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集合時間の十分前。
私はお気に入りの物に包まれていた。
服は出かける日に着ようといつも着ていなかった服。
靴は綺麗な淡いピンク色のパンプス。
鞄はプライベート以外使わず、値段も自分的には高めだったもの。
それに加えて今日は髪も少し巻いてみた。
普段なかなか着飾らない私は不慣れで仕上がりはイマイチだが、耳にかけて誤魔化せているので問題ない。
気合が入っているのは一目瞭然で自分でもこんなことめったにないと思っている。
きっと久しぶりに楽しいという確証がある一日だからだろう。
だから家を早く出たくてうずうずし、結局早めに出てきてしまった。
今日はどこに行くのだろう。
話を中心にするのだろうか。
それとも買い物とかに行くのだろうか。
予想はしながらもどれでもいいと思っていた。
だって蒼生さんだったら楽しませてくれると思うから。
口角が不覚に上がってしまうのを押さえながら駅前で待っていると、一度見た車が見えた。
忘れない。
赤い光沢の車。
それが蒼生さんの車。
正解だというように私の前でその赤い車は止まった。
「お待たせ、茉莉ちゃん」
車から降りていつもの笑顔を見せてくれる蒼生さん。
その顔を見るだけで私は嬉しい。
笑顔になるのは当然で胸も高鳴る。
温かさまで感じる。
「誘ってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ! 急な誘いでごめんね」
少しだけ頭を下げると蒼生さんは許すよ、という言うように頭をポンポンと手を乗せてくれる。
「じゃあ、行こうか。どこか行きたいところはある?」
「あ、特に考えてなくて……」
それもそうだ。
さっきまで蒼生さんがどこに連れて行ってくれるかと考えていたくらいなのだから。
自分が誘ったという事実がある中、私の考えが穴だらけに近いことを知る。
「じゃあ、俺のおすすめってことで。日曜日だと混んでるよね。しかも明日祝日だし。海の日だっけ?」
そういえばと私は口を開けたままになる。
自分の仕事場も休診日だった。
見事に穴だらけの考えに失敗をしたと少し焦りを感じ始める。
混んでいるからすぐに帰ろう。なんてことになったら私がミスを痛感する。
「とりあえず行こうか」
申し訳なさが何よりも勝っていた。
誘って、任せて、困らせている。
計画性という言葉が私の頭にはないらしい。
昔からという自覚さえ生まれる。
それでも車に乗り込めば蒼生さんからする微かな匂いに包まれて一気に安心感に繋がった。
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