クルクマ ~あなたの姿に酔いしれる~

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急いで車に戻るとじめっとした空気を先ほどより強く感じた。 少し濡れた部分は体に張り付いて少し気持ち悪い。 フロントガラスには雨粒が多く張り付き、次第に粒が大きくなっていく。 雨音も強い。 このままでは車内の会話だって難しくなるだろう。 憂鬱になる雨は昔から嫌いだ。 そして今、嫌いという気持ちは今までより強くなる。 せっかく蒼生さんと出かけられたという日に邪魔をされている気分になる。 「どうすっかなー」 窓枠に肘をつきながら蒼生さんもフロントガラスを見ている。 休みの上に雨では屋内の混雑は当たり前。 野外はこの通りだ。 家のそばに戻っても雨というのは変わらないだろう。 そうなれば行く場所なんて思いつかない。 ショッピングモールは混雑して二人で見ることもスムーズに会話することも難しい。 カラオケなども同じことを考えて皆が行くだろう。 海が近いなら水族館。 そう思ったが休日。子供連れが多い上にカップルも多いだろう。 別にカップルなんてどうでもいいはずなのに、今の私の目には眩しくて嫌な存在だった。 そうなると場所もない。 「あの……」 これ以上困らせたくない。 そう思って断ろうと思った。 もういいよと。自由に過ごしていいよと。 でも言葉が重なった。 「茉莉ちゃん」 タイミングが合った私たちは忘れていたかのような視線を交わす。 笑う気分でもないし、なぜか胸は苦しい。 この空間が苦しい。そして蒼生さんの視線が熱く感じる。 まるで今私の目にはその瞳しか映っていないみたい。 「俺の家来る?」 当然、耳を疑った。 その後に気持ちを疑った。 否定までした、自分の心に。 でも答えは決まっていた。 導かれるように頷いて、当然のように心の準備ができている。 亜貴君が知ったらどんな顔をするだろう。 嫌な顔をしてくれる? 心配してくれる? でもどっちでもいい。 亜貴君のせいなんだから。 そう思ったら蒼生さんといることに罪悪感なんてなくて、二人の時間を楽しみたい。 その気持ちだけ大きくなっていった。
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