ヒガンバナ ~悲しき思い出~ side 瑠華

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携帯には七月三十日と表示されている。 もう一か月になる。 一か月かかってやっとここまで来た。 あともう少しなんだ。 携帯のトーク画面を開けば通知が来ている。 いつも通りに勉強という名の約束のメッセージが。 上手くやればいい。 こないだ狂った感覚も使いこなしている。 だから私は成し遂げられる。 きっと…… 「ねえ。俺といるのに携帯見てるのー?」 うざったい声が横から聞こえる。 素肌が触れて寄せられると何度も匂った香りがまた鼻に入ってくる。 「利用していいって言ったのは誰?」 「霧島蒼生。君の横にいる人間」 腹が立つ言い方をしながら私の体に触れてくる。 抵抗する気もない私の何がいいのかわからない。 それでも離れずに私の携帯を覗き込んでくる。 「桧山にまた会うの?」 彼は先生と林茉莉の会話をするとき、少し人が変わる。 へらへらしていて何も考えてないように見えるのに、私のことを知っているかのように真剣な眼差しと声を向ける。 「最初の目的忘れたの?」 「忘れてないよ」 ため息混じりの声と共に後ろから起き上がる音とベッドに反動が伝わる。 やっと離れたと思った時にはもう頭の上に手が置かれている。 「どうして自分犠牲にしてまで成し遂げたいものがあるの?」 何を成し遂げたいか。 普通はそちらに気がとられるのではないかと思うがそれは軽く流す。 「私の全てが狂ったから」 「そっか」 少し意味のある質問だと思っていたのに、彼は頭を軽くなでると布団から抜けていく。 拍子抜けとまではいかないが価値観が掴めなくて彼の人間性が見えない。 「でもさ、少しは自分を大事にしなよ。協力はするけど、君を壊すつもりはないから」 響くことはないと知っているのにどうして彼は言うのだろう。 私が成し遂げたいことを知っている。 彼にはかなり働いてもらっている。 報酬なんて高いどころか金じゃない。 まあ普通だったらおかしな契約だけれど。 肝心なことを教えない私になぜ彼は私に手を差し出しているのだろう。 見ていない後ろ姿を感じながらもう一度携帯を見る。 明日の約束に返事をするだけ。 ただそれだけ。 いつも通りの寂しさを埋める役割、そして計画通りの壊す行為。 順調なのに、目的に近づいているのに苦しい。 何が苦しいのかわからない。 でも引き返さない気持ちと裏腹に小さく何かが訴えていた。
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