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「さて、それでは本題といこう。君の仕事部屋はどちらかな?」
ケーキを食べ終えてから2つ並んだ戸の前に立つ。
こういうのはどちらかが寝室でどちらかが仕事部屋だと決まっている。
……まぁ、私としてはどちらでもいいのだが。
「右です。ですけど入るのは少し待って下さい。散らかってるので掃除させて下さい。……待って下さいよ??」
「待っているじゃないか。二度言わないでほしいな、私は信用がないのかな?」
素早く食器を流しへ運んだ花嵐は、これまた素早く仕事部屋に滑り込んだ。
中からはバタバタと何やら慌ただしくしている音が聞こえる。
手持ち無沙汰で、ふと隣の部屋へと視線を投げた。
ベッドだろうか? それとも布団だろうか?
そんなことが妙に気になって仕方ない。
ベッドだったらきっと大きなものだろう、彼は身体が大きいから。
でも布団の方が花嵐の雰囲気の似合っている気がするな。
引手にそっと指を添えて数cm……いや数mm戸を開けたその時──。
「な、なんとなく片付いたのでどうぞ入って下さい──て、カリンさん!」
目の前の戸が開いて花嵐が姿を現す。
急いで手を引っ込めたが、ちゃんと見られていたようで彼は咎めるような声を出す。
「家捜しはしないで下さいと言いましたよね?」
「……まだ開けてない」
「開けようとしたんですね、勝手に駄目ですよ」
コイツ、今日は自分のテリトリーだからやけに強気だな。おこがましい。
「以後慎むことにするよ」
トンッと男の胸板を叩いて仕事部屋へと入る。
四方の壁は本棚で埋め尽くされ、部屋の真ん中には漫画を描く為の机と椅子が置いてあった。
居間と違ってこちらはごちゃごちゃと物が多く、床にも色々なものが放置されている。
「ええと、これが漫画を描く液タブってヤツです」
四角い大きなタブレットには漫画のワンシーンが描かれている。……相変わらず絵は美しいな。
それから彼はレイヤーがなんたらと専門的なことを語りだしたが私にはさっぱりだ。……でも、好きなことを夢中になって喋る花嵐はかわいいと思った。
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