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振り返るとヒョイとスケッチブックを取り上げられた。
「軽蔑しますか? でも絵描きが好きな人を描くことは結構あるんですよ」
何も答えられずにいる私に花嵐は続ける。
「おれ、脳内でカリンさんのことぐちゃぐちゃに犯してました。それだけでは飽き足らず絵に描いたんです。……気持ち悪いですか?」
訊ねられてもどう答えてやればいいのか分からない。
気持ち悪いだなんて思っていない、ここ最近はずっとこの男に自分はどんな風に抱かれたのだろうかと気になっていた所だ。
でも、それを素直に口にするほど私のプライドは安くはなかった。
「よくある童貞の妄想だろうからそれを咎めるほど私も狭量ではないよ。私は美しいからそういう目で見られても仕方ないからね」
自分でも実に憎たらしい言い方だと思う。いつだか友人の弟に"中身が不細工"と言われたが、今なら納得出来てしまいそうだ。
「カリンさん、おれはもう童貞じゃないですよ? おれはカリンさんを抱きました」
そんなことを言われても私は覚えていない。覚えていないのがたまらなく悔しい。
「……君は、君の妄想のままに私を抱いたのかな? その絵の様に手荒く私の身体を蹂躙したのか? 私は何も覚えていない」
覚えていないはずなのに身体の奥から熱くなって、淫らな気持ちを抑えることが難しくなる。……こんな無様、私らしくもないのに。
「覚えていなくていいじゃないですか。カリンさん、おれに早く忘れろと言った位なんですから」
「……それは、そうだが、」
確かにあの時──まだこの男のことを何も知らずにただ嫌悪していた時はそう言った。私自身も犬に噛まれたと思ってさっさと忘れようとしていた。
だけど、今は違う。
思い出したい、教えてほしい、出来ることならこの身体に──。
「カリンさん、何で来たんですか?」
突き放すような冷たい声。花嵐のこんな声を聞いたのは初めてだ。……ズキリと胸が痛む。
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