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打ち合わせが一段落し、皆で2杯目のコーヒーを飲んでいると霙が唐突にこんなこと言い始める。
「天道先生ってハナちゃんが漫画描いてる所見たことないですよね?」
「ないね」
頷きながら答えると、向かいに座る花嵐の顔が少し引きつった気がした。
「そもそも漫画はどうやって制作されるかはご存知で?」
「殆ど無知だ。トーンを貼ったり、ベタを塗ったり、丸ペンとかGペンとかいう言葉なら知っている程度だ」
「それは昔ながらのアナログというやつですね。今は色々と発達していますから液晶タブレットなどを使ってデジタルで原稿を描く漫画家が圧倒的に多いです」
「時代の流れというやつだね。私も学生時代は原稿用紙に万年筆で小説を書いていたが今はパソコンだな。あれは修正が簡単に出来て便利だ」
「漫画もそうです。デジタルなら何度でも描き直しが出来ますからね。だからハナちゃんも原稿は完全デジタルなんですよね」
ふと花嵐を見ると、彼は気不味そうに俯いている。……さっきから様子がおかしいな。
「ハナちゃん、せっかくだから天道先生に仕事部屋を見学してもらったらいいんじゃないか? どんな風に漫画を描いているのかを先生に教えてあげたらどうだい」
仕事部屋? それはつまり、花嵐の自宅ということか。……ふーん、家か。花嵐の家。
「私も作画がどのように行われているのかが気になるな。是非見学に行きたい」
そう、あくまで漫画制作に興味があるだけで花嵐の家に行きたいとかでは全くない。
だというのに……。
「ええと、その……それはちょっと無理、ですね。すみません、」
***
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