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この世で最も美しい私の願いを断れる者など存在しないと思っていたが、よりにもよってこの不細工に"無理"なんて一言で袖にされるとは夢にも思わなかった。
カツカツとヒールを鳴らして歩く私の後ろを花嵐は駆け足で追って来る。
「カ、カリンさんってば、待って下さい!」
喫茶店を出るとこの醜男は何食わぬ顔で"昼飯にでも行きませんか?"だなんて誘ってきたが、一体どういう神経をしているんだ?
腹が立ったので無視をして歩き出したのだが、やっぱりコイツはついてくる。
「カリンさんっ!」
大きな声で呼ばれ、ぐいっと腕を引っ張られて立ち止まる。
「……ええと、その、な、何か、怒ってますか?」
"何か怒ってますか?"だと? それもまた随分と苛立つ質問だな。
とりあえず周りの奇異の目が気になるので、まずは1つ提案をさせてもらう。
「カラオケ」
私の発したそれを正しく理解した花嵐は腕から手を放し、こくんと頷いた。
古びたカラオケ店の一室。
赤いソファに2人並んで腰をかけた。
隣の不美人がそわそわと落ち着かない様子で私の機嫌を伺ってくる。
「花嵐」
「は、はひぃ!」
裏返った声でビクッと肩を揺らす様は本当に滑稽だな。
「お前は顔だけでなく目まで悪くなってしまったのかな?」
「へ? 目、ですか? し、視力ってことですかね?」
「そうだよ。……動くなよ」
男の両目を隠す重苦しい前髪を持ち上げると、冷たい印象を与えるつり目が現れる。
「お前、ちゃんと私の顔は見えているか?」
喋れば、唇と唇が触れ合うような距離まで顔を近づける。
花嵐のはぁはぁと荒い吐息を感じて背中がぞくぞくしてしまう。
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