夜行列車

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 それを別にすれば猫時代、朔の普段の行動範囲は、自宅からせいぜい半径百メートルくらいだ。  クリ目は雄猫。雄猫は雌猫と違って行動範囲が広い。  とはいえ湯河原の猫が「島根県の雲州大社」とか「出雲市行きの夜行列車」を知っているものなのか?彼がマガティを知っている理由も分からない。  そういえばクリ目って、どこから来たんだ?  クリ目はどこで生まれたんだろう?  俺はこの、クリ目に関する数多くの疑問を誰かに投げかけてみたいと思ったが、クリ目の名前を出すと朔がうるさいので、とりあえず口に出さないことにした。  俺はちびるの買ってきたクロリーメイトのプレーン味を囓りながら、車窓を流れて行く信号灯を見送ることにした。 「やっぱクロリーメイトってチーズ味が一番美味しいよね」 「ぼくはチョコ味がいいな」 「あたしフルーツ味が好き」  最初はキャッキャと騒いでいた三人も、次第に黙りがちになった。  会話が途切れると、ちびるが車窓を眺めていた。ベッド上段の二人もそうしているのだろう。  沿線には遠くの街灯りが小さな点になって動いて行く。
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