揺るる炎

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「……い、……れか!誰かいるのか!」 「あァ、つまんねェヤツらがきたなァ。毎度毎度ご苦労さんッてな」  遠くから聞こえてくる、悲鳴とは違った喧騒。駆けつけてくる無数の足音と呼びかけの声がこちらに迫ってくる。  あれに捕まったらどうなるのだろう。  どうするのが正解か。  ワカラナイ。  何も分からない、けどーー 「じゃァな、クソガキ」  それだけ残して去ろうとする男の裾を掴む。  男を引き止めるだけの力は入らなかったけど、気付いてさえくれれば十分だった。 「ぁって、まっ、て」  久しく話していない喉は、熱気に焼かれうまく言葉を吐き出せない。 「ンだァ?助けて欲しいなんて吐かすならーー」 「ぉし、えて。たぁかぃかた、おしぇて」  掠れて消え入りそうな声とは裏腹に、瞳の輝きは強く、燃えるように熱い。 「おいおい、オマエを殺さなかったのはただの気まぐれだ。勘違いしてンなよ?」  その瞳を真っ向から見返す深紅の瞳は、今は鋭く細められ氷のように冷たい。  再度、互いの視線が重なる。 「オレにとってオマエが邪魔になるンなら、容赦なく殺す」 「……、そぇで、いぃ。とじこぇらえないなら、くぁやみのなかかぁ、でらぇるなら、そぇ、で……ケホッ」  喉が張り付いて苦しい。身体中の水分が抜けていく気がする。  それでも薄青の瞳は青い炎のように激しく燃えて、言葉よりも雄弁に訴える。  一際強い風が吹いて、辺り一帯を巻き込む炎が唸りを上げた。 「ーークハッ、ハハハハハハハハァッ!!」  睨み合って数秒、何が琴線に触れたのか、男が天を仰ぎ高笑いする。そしてもう一度薄青の瞳を見つめた。 「あァ、いいぜェ。戦い方ってヤツを教えてやる」  静謐に燃え盛る薄青と、烈火の如く猛る深紅。色違いの二対の瞳が鏡写しのようにゆらゆらと揺れて、交わる。 「だが、言った通り邪魔になれば殺す。飽きても殺す」  無数の足音がすぐそこまで迫り、消化活動が始まった。何軒もの家を巻き込んだ炎がみるみる鎮静化していく。 「暗闇の中から出たい、なンて願いにこのオレを利用しようってンだからよォーー」  庭の門を突破して、数人が中へ入ってくる。  そのうちの一人がこちらに気付き、声を上げるよりも早く。 「ーー精々オレを愉しませてみせなァ」  空高く飛び上がった二つの影を、月が照らした。
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