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〈第四話〉探し人(1)
今日は仕事が遅くまでかかり、まだ帰路の途中。
夕めしもまだ。
何でも良いから早く口にしたかった。
口でつぶやくより最速で
飛ぶようにレッドのLOTUSが高速を走り抜ける。
俺と同じ名「ロータス」はせっかちだ。
素早く山道を抜けると高架橋の眼下にポッカリと空いた漆黒の闇が見える。地平線も見えず空との境界もない。ナビに尋ねるとこの周辺は海らしい。
新月の今宵は光もなく、浮かぶ船も幽霊船の様に姿もない。
この世で終わりをむかえた住所。そんな場所に来たようだ。
闇は俺の心に空いた窪みのように見えた。
最近は、徹夜の連続でついに昼も夜も分からなくなった。
夜に家を出て仕事場へ入り帰宅しようと
外に出ると2日後の深夜の始まりだった。
皆に帰りの挨拶をして、ドアの外にでると俺の帰りを待つ者は誰もいない。自由は孤独。結婚しないの?と聞かれるけど既婚。そうは言っても伴侶は今、もうこの世には居ない。俺と彼は十代の頃に婚約。その数ヶ月後に突然に亡くなった若い頃の恋人。17才の2月の誕生日が命日。
俺には、探し人がいる。…この世では、二度と会えない永遠の恋人。時間を取り戻したい。例えその願いが絶対に不可能であっても。
しばらく車を走らせると、暗闇の前方に色とりどりの光が無数の帯になって浮かび始めた。海岸線に沿って屋台が連なっている。人のぬくもりを感じた。誰かに会いたい。まだ見ぬ誰かに会って抱きしめ合いたい。
腹が減ってるし、明日の予定は誰ともない。降りてみるか…。
つづく…
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