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〈第六話〉ブルー色の花びら(3)
よく見ると、花びらは新鮮なブルーだけではなく、ドライフラワーが混ざっていた。枯れて色褪せた青。それと同じ色で光る細い線も混ざっている。回転した後に波に浮かんでパサーっと地面に落ちていく。光る細い線は男の髪色だった。その色もブルー。青髪は通常の人の色では見られない。染めているのか?永遠の恋人も同じ色だった。でも男と恋人では違う印象の青。男の髪は11月の枯れた紫陽花のブルーのように生気がない。腰近くまで無造作に伸ばされ、前髪は鼻の下まで伸びその下は延長されているように髭を生やしている。何かの獣のよう。少なくとも堅い仕事の勤めではないだろう。目尻や口角が見えないせいで、感情が読み取れない。花びら食って嬉しい?吐き出しているからマズい?。男はまるで中毒のように花をむさぼる。頬は痩せ、よだれと花びらが口元から垂れ流されている。力強い筋肉と対照的に繊細な青白い獣。新月の晩に海辺に降り立った強い光の三日月の姿。
毎日正しく食事はとれているのか?人としてきちんと日常生活をおくれているのか?家やそこにいるだろう家族や友人達などと共に温かい雰囲気の中で暮らしているのだろうか?
とつぜん屋台の端で客たちから悲鳴が聞こえた。鋏をくれ。蟹がまだ生きている。
肢体は鍛えられている。美しく鍛えられている。体幹もしっかり通り、腰から下の太ももは速い回転にブレずに羽のように軽い。細いが踊りのため作られたような筋肉。上にのっている艶のある透き通った肌も青白かった。髪の印象と共に男は炎のように青白い。触れちゃいけない温度と心。受け止めたい。ダンスの間中、俺はその髪色と筋肉と肌を見つめていた。捨て目で体の端に汚れがある。手指の爪に塗られた化粧の先に汚い土がめりこんでいる。きっと土の上へ落ちた花びらを引っ掻いて取っているせいかもしれない。以前に花屋の爪先を見たら土が入っており、傷ついた指先が荒れていたの思い出した。日常的な取れない汚れ。何度も舞い、落ちた土の上の花を引っ掻いて取っているのだろう。
そのエネルギッシュで幻想的なダンスにどんどん魅了されていく。俺はその青い枯れた髪色の男から目が離せなくなり、そこから幻想の始まりにもなった。この男が俺が探しに来た、人のぬくもりになってくれるか?普段、美術評論と美術家で生活している。創作のイメージが湧いてくる。徹夜の連続でついに昼も夜も分からなくなっていた俺の心に空いた窪みの闇は埋めることができるのか。
含んだ花と吐いた花。夜空へ吐いた花。男の口元がヘラヘラと笑い始める。昔に読んだ中国神話に登場する神?怪物?の渾沌(こんとん)を思い出した。渾沌とは混沌であり、物事の分別がハッキリしていない様、もやもやしている状態のことを言う。顔面には、人の顔にある7つの穴がない。左右の耳と左右の目、鼻の2つの穴、そしてひとつの口。もてなしてくれた渾沌に恩を返すため、顔に七孔をあけると死んでしまったという話し。そこから物事に対して無理に道理をつけることを『渾沌に目口(目鼻)を空ける』と言うらしい。
そんな俺の男への興味などどうでもいいように、
男は人々が潮風に舞わせる花びらを笑いながら追いかけている。
つづく。
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