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〈第八話〉古いラブホテルに好きな人と行った話し(5)
僕の踊りを最後まで見てくれていた男の人がいた。紫陽花を投げられてみんなにバカにされる中で真剣に心配をしてくれているように感じた。激しく踊っていたために顔ははっきり見えていなかったけど。どことなく喧嘩別れした父親に似た雰囲気を持っている人に感じた。今はどこで何をしているのだろう?思い出してくれることは、あるのだろうか。僕は嫌いだから日々いつも思い出している。10代の中頃から母親が亡くなってしまったので、ずっと一人でさまよい続けていた。この前の街でもずっと探してきた父に似た人を。運命の人。きっと彼とならうまくやっていける。やっと見つけて幸せになれるかな。でも無理ばかりしている僕にはあまり時間はないのかもしれない。彼は助けてくれようとした。でも僕はそれは断り、この街に来た夢、理由を果たそうとした。それは海岸の外れにある店、通称やり宿。海沿いの古びたラブホテルに行って抱いてもらうことだった。世界で一番好きな人と初めてセックスをすることだった。この店で結ばれると永遠に二人は恋人で離れないらしい。もうひとりでいたくない。目を開ければあたたかい布団で誰かといたい。僕は目を閉じた。走馬燈が夢を叶えてくれそう。でもやっぱりまだ体験していない経験の想像はうまくできなかった。一人ぼっちじゃなくて。一生に一度でも愛する人と。
夕方から入った海沿いのラブホ。「今夜は一人にしないでほしい…」そう一言言うと俺の胸に頭をうずめる。背の高い子が小さなリスの様に丸まる姿が愛おしい。初めてだからムリはしてないハズだった。部屋に入るとずっとベットの上。白くてつややかな肌は腕の中でスルリと逃げる。手繰り寄せるように首を軽くおさえると俺は夢中になった。途中から室内が暑くて窓をあける。強めの潮の香りと遠くで流れる海の家から流れるフュージョン。
ことが終わると自分勝手に眠ってしまった。ブルーの顔色を見るのを忘れていた事を今でも後悔している。目覚めると彼は居なくなっていた。灯りの下に一枚のメモが残されている。「夢の中で会いましょう」メモを握りしめ持ち込んでいたバーボンを飲み干し、眠りの中に夢の中に彼を探しに行った。夢の中のブルーは、ぼんやりして浜辺の月を見ていた。「素晴らしい経験でした。後にも先にもあなた一人です」振り向いた顔の口元には海の泡と紫陽花の萼片が滴り落ちていた。無理をさせてしまったんだと思う。そのまま泡は海の波と共に流れて消え彼の姿も消えた。人魚だったのだ。
王子に会いたくて魔法をかけた健気な人魚だったのだ。そこで目が覚めた。全て夢か?俯くと太ももに青の長い髪一本が太ももに蛇のように絡みついていた。「またいつか会いたい」握りしめ抱きしめ泣く俺がいる。
(ロータス編。終)
僕は身体にまとわりつくあらゆる液体を
池の水で洗い流すことにした。心の容量が
あるなら愛されすぎたために溺れてしまうから。
短編小説オムニバス「恋愛」は、まだ少しつづく…
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