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カスケード
まぶたを閉じると、うっすらと、道のようなものが見えた。
人一人分が通れるほどの細い道。僕はそれに見覚え……目を閉じていて『見』覚えもなにもあったものじゃないが、まだ僕が学生だったころ、同じ光景を三回ほど見たことがあった。
黄土色の、土のようなものを固めてできた道以外なにも見えず、辺りは暗闇で覆われている空間。
もし途中で目を開けたり、道以外の場所に行こうとすると途端に道が消えてしまい、そのあといくら目を閉じてもその道を見ることができなくなってしまのだ。三回の経験のうち、二回はそれで道が見えなくなってしまったため、よくわかっている。
僕はその場でしばらく立ち止まり、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。気分が落ち着くにつれて、おぼろげだった道がだんだんはっきりしていく。それを待って、僕は歩き出した。
不思議な感覚だった。目を閉じている僕は寝ているはずなのに、意識はあるし、体は動いてる気はしていないのに、道の上をゆっくりと歩いている。きっと、夢を見ているというのは、こんな感覚なのだろう。
何度か目を開けたくなる衝動に打ち勝ちながら先に進むと、やがて、道の先に立派な建造物が見えてきた。
「変わってないなあ」
その入口まで来た時、自然とそう呟いていた。ここに来たのはこれで二度目である。そのときから、まるで変わっていなかった。
「あれは僕が学生のころだったから……うわ、もう15年も昔の話になるのか」
驚きのあまり笑ってしまった。それだけの時が経っているというのに、外観はまるで風化していない。まあ、現実に建てられているわけではないので、劣化もなにもあったものではないのだろう。
見上げるほど巨大なそれの外観は、まるきり国会議事堂のまんまだ。
おそらく、ここに初めてくるとき、国会議事堂に社会科見学にいったときの記憶が影響されているのだろう。あのときの僕の中で一番立派な建造物がそれだったからそのまま反映されてしまったに違いない。
僕はその外観を目に焼き付けてから、中に入った。
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