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セントラル
19XX年。夏。
首都バビロニアの中央街で、逃げ惑うファントムを追い掛ける男が一人。
彼の放った糸は風を切るように勢いよく、捕獲対象であるファントムの足に絡みつく。
何重にも巻き付いた糸がキリキリと足を締め付け、ファントムは大きな悲鳴を上げた。
灰色のゴーグルを身に着けた黒のライドスーツ姿の男が、無表情でその糸を手繰り寄せる。
そしてファントムの頭を遠慮なく踏みつけ、無線機に呟いた。
「制圧03、制圧完了」
『本部より制圧03、制圧了解。狙撃07がケージ運搬中、現場にて待機せよ』
「制圧03、了解」
無線機を内ポケットにしまった男――キースは、左腕に付けていた腕時計を見た。
時刻はとうに日付を跨いでいて、時間を確認した途端に猛烈な眠気に襲われる。
暑苦しさを誤魔化すようにゴーグルを外した彼は、ふーっと息を吐いた。
眠気を振り払うように、ファントムに巻き付いた糸と同じそれを自身の指に巻き付ける。
その手は赤く滲んでいた。
「先輩、移動早すぎですよぅ」
大声で愚痴り、ファントム用輸送ケージを押すブレザー姿の少女。
背負っている大きめのライフルケースと制服のアンバランスさは、真夜中の街中では一際目立つ。
その姿を確認したキースは、すまないと返した。
「アジトまでは先輩が押してくださいよ。わたし、もうクタクタで動けないんで」
「良いだろう。今日はこれでラストだからな」
「良かったぁ。あっそうだ、わたしケージの上乗っていいですか」
「馬鹿なこと言うな。またアイリーンさんに怒られるぞ」
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