158人が本棚に入れています
本棚に追加
「そろそろ行こう。濡れたら風邪を引くから」
なかなか足を動かさない彼女に声をかける。すると、隣の傘から「あっ!」と大きな声が上がった。
「みつけた!あそこ!」
彼女が指さした方を見る。小さな遊園の滑り台の奥。薄紫に色づいた紫陽花の根元。
僕の目がそれを捉えると同時に彼女が駆けだした。仕方なくあとを追う。
「六花……」
「見て!仔犬!」
段ボールの前にしゃがみ込んだ彼女前には、茶色く小さな毛だまり。生まれて間もない仔犬だ。目が開いているのかどうかもあやしい。
「誰かが捨てていったんだ……」
「無責任だな」
「このままじゃ死んじゃうかも……お父さん……」
悲しそうにそう言った彼女が次に何を言うか、僕にはすぐに予想がついた。
最初のコメントを投稿しよう!