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パラパラ、パラパラ。頭の上で音が跳ねる。
潮の香りと雨の匂いが溶けあう午後。瀬戸内の海を挟んだ向こう岸は薄く煙り、国道と並行して走る線路を貨物列車が一定のリズムを奏でながら通り過ぎていく。
例年よりも二十日も早く宣言された梅雨は、もうすぐ七月になろうかと言うのにまだ明ける気配はなく、今も僕の傘の上で絶えず音を立てている。切れ間なく空を覆う灰色の雲は、ずっしりと水気を含んだタオルのよう。絞っても絞っても絞りきれない水滴のせいで、駅舎を出てからの数分の間に、ズボンの裾はすっかり色が変わってしまった。
黒い革靴にかかる雨だれを目で追いつつ歩いていると、隣にあるはずの気配がふと消えた。足を止めて振り返る。案の定、紺色の傘が数メートル手前で止まっていた。
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