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翌朝、いますぐにでも純白のタキシードを着てチャペルに行きたいとごねる悠を、慎也はやんわりと止めた。
「お楽しみは、もっと後にとっておくものだ」
「じゃあ、明日!」
やれやれ、と彼の頭をくしゃくしゃ撫でて、慎也はその目を真っ直ぐに見た。
「悠のご両親に、ご挨拶に行きたい」
「えっ!?」
とたんに機嫌を損ねる、悠だ。
「ヤだ。僕の結婚に、あんな人たち関係ない!」
「これは、大切なことなんだ」
悠の戸籍をちゃんと久貝の家に移さなければ、正式な結婚とは言えない、と慎也は押した。
「でないと、内縁の夫、ということで私に何かあった時に、相続が面倒なことになる」
また弟が、良からぬ野心を抱かないように、慎也は安全装置を作っておきたかったのだ。
「君と、いずれ生まれる子どものため、だよ」
「うん~」
いずれ生まれる子ども、と聞いて、悠は態度を軟化させた。
「つまり、僕たちの赤ちゃんが困らないように、ってこと?」
「そうだ」
まだ唇をとがらせたままの悠に、慎也は言う。
「私も、命を狙ってきた弟を許した。悠も、同じようにご両親を許してやってくれ」
私に免じて、許してやってくれ。
そこまで言われると、悠も我を張れない。
「解った。僕、お父さんとお母さんを許すよ」
「それでこそ、悠だ」
大人になったな、と慎也は悠を抱き寄せた。
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