第一章 案外優しいじゃん

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「あ、ごめんなさい! じゃあ!」 「待て」  すぐに逃げ出そうとしたが、寸でのところで腕を掴まれた。 「は、離せ! 離せよぅ!」 「いくらだ」  暴れる悠と対照的に、慎也は落ち着いた声だ。 「え?」 「客になってやる。一晩いくらだ?」 (やばい。やばいよ。ヤクザなんかと関わったら、どんな目に遭うか!) 「こ、今夜は店じまいだから。ね?」 「いくらだ。言え」  悠は、息を呑んだ。  抗うことを許されない、絶対的な声だった。 「こ、これだけ……」  悠は、人差し指を一本立てた。  慎也は無言でうなずくと、悠の手首をつかんだまま歩き始めた。 「ちょ、痛いってば。離せよ!」 「逃げないと約束するか?」 「逃げない。逃げないから!」  ようやく解放された手首には、赤い跡が残っている。 (馬鹿力……) 「何か言ったか?」 「何でもありませーん」  ついてきた先は駐車場で、慎也はその中の一台に乗り込んだ。 「フェラーリ……。ホントにお金持ちだったんだ……」 「ぐずぐずするな。乗れ」  悠がナビシートに座ると、車は軽快に滑り出した。
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