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「あ、ごめんなさい! じゃあ!」
「待て」
すぐに逃げ出そうとしたが、寸でのところで腕を掴まれた。
「は、離せ! 離せよぅ!」
「いくらだ」
暴れる悠と対照的に、慎也は落ち着いた声だ。
「え?」
「客になってやる。一晩いくらだ?」
(やばい。やばいよ。ヤクザなんかと関わったら、どんな目に遭うか!)
「こ、今夜は店じまいだから。ね?」
「いくらだ。言え」
悠は、息を呑んだ。
抗うことを許されない、絶対的な声だった。
「こ、これだけ……」
悠は、人差し指を一本立てた。
慎也は無言でうなずくと、悠の手首をつかんだまま歩き始めた。
「ちょ、痛いってば。離せよ!」
「逃げないと約束するか?」
「逃げない。逃げないから!」
ようやく解放された手首には、赤い跡が残っている。
(馬鹿力……)
「何か言ったか?」
「何でもありませーん」
ついてきた先は駐車場で、慎也はその中の一台に乗り込んだ。
「フェラーリ……。ホントにお金持ちだったんだ……」
「ぐずぐずするな。乗れ」
悠がナビシートに座ると、車は軽快に滑り出した。
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