第一章 案外優しいじゃん

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「おい」  慎也は、平手の甲で軽く悠の頬を叩いた。  起きない。 「どうするかな」  悠は、幸せそうにすやすやと眠っている。  慎也は、考えた。  ①無理やり起こす。  ②寝たまま、犯す。  しかし、この寝顔を見ると、そんな無体なことはできそうもない。  結局慎也は、悠をそこに寝かせたままリビングへ戻った。  そしてソファに丸めてある、悠の衣服やバッグを調べた。  何か身元の分かるものはないか、と思ったのだ。 「免許証も、保険証も、無い」  所持金は、4,632円。  服は、大型量販店のブランド。 「野良猫、か」  おおかた家出でもして、ふらふらさまよっている少年だ。  でなければ、あの歓楽街が隆誠会のシマと知らずに、商売をするはずがない。  グラスにブランデーをもう少しだけ飲んで、慎也もベッドに潜った。 「おやすみ、野良猫」  さらりと栗色の髪をかき上げてやり、そのまま眠った。
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