プロローグ 公共電波

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

プロローグ 公共電波

 ラジオアプリを開いたスマホからジャズが流れ始める。  ギターの音色とドラムのリズムに乗ったシェイカーが、一定のリズムで振られて一つの曲として混じっていく。シャカシャカと砂粒を擦り合わせた軽妙な音が加わった波に、待っていましたとトランペットに息を吹き込んだ。 「−−◯×ステーションをお聞きの皆さんこんばんは、表畑(ひょうばたけ)です」  インストゥルメンタルをBGMに芯が通った男の濁声が流れてくる。落ち着きがあるその声色は、デスクトップで編集作業をしている男にとって心地良かった。 「毎週金曜日、午前1時からは表畑レディオをお送りします。……はい、まずはさっそく(紙を捲る音)皆さんから送られてきたメッセージを紹介していきます。ラジオネーム『今年で十五歳。嘘、本当は四十五歳』さんから、『表畑さん、こんばんは』こんばんは『最近、テレビをつければコロナ、ネットを開けばコロナで、もう気が滅入ります』苦しいよな『ここで質問なのですが、表畑さんは自粛期間中、何をしていましたか? 僕は、猫の動画にハマって今もずっと見ています。表畑さんは動画サイトを見たりしますか? ぜひ教えてください。PS. あと、紅白出場おめでとうございます』ハハッ、えー、ありがとうございます。凄い、とってつけた感あるんですけど(スタッフの笑い声)、ありがたいですね」  母音が上がった関西独特のイントネーション。表畑が半笑いで答えれば、ブース外で薄らとスタッフの籠った野太い笑い声が聞こえてくる。 「あー、自粛期間はね、俺も動画サイト見てたわ。そう! それでハマった奴があって、自粛期間関係ないんやけど、俺ね、寝る前にいつも動画を見るのよ。その日も、適当に動画見ようとしたのね、眠れなくて。そしたら、オススメに出てきた奴があってさ……」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!