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幽霊おるよ!!
「来ては見たけど…、やっぱブクブクゆーてんなぁ、助けるにもちょっと遠いし…」
「湯川くん湯川くん。君、ほんまに幸運の持ち主やで」
「何やねん急に」
「俺な、良いもん持ってんねん」
赤い傘を手に入れた。
なんの変哲もない、普通の傘。
…一応、湖に出してみた。
届く訳がない。
「……無理やで、さすがに、こっからは遠いもん」
「大丈夫やで!ほら!」
疑いながらももう一度湖を見る。すると、さっきまであんなにブクブク溺れていた幽霊はピタリと止まり、そして静かに沈んで消えていった。
「は……?」
ゆらりゆらり揺れていた水面が静かにおさまった。
急に寒気が走る。
何かがつっかえているような気分。
とてつもなく嫌な予感がした。
「あいつ、自分から来てくれるもん」
ガバッ!!
突然、湖から白い腕が伸びて、俺の持っている傘の先を掴む。
水面から少し浮き出る幽霊の顔。
不気味にニタニタと嗤う顔。
「ひ、ひぃぃぃっっ!!!」
思い出したくないことを思い出してしまったときの最悪な感覚。
幽霊は強く傘を引っ張って、俺を湖に引き摺り込もうとした。
俺は力留まろうとしたが、地面がぬかるんでいて、意味がないのと同じだった。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!
「た、たすけて!!」
奴に向かってありったけの声で叫ぶ、背後に突っ立ってるであろう奴に。
「アホやなぁ、湯川くん、傘やって、傘」
傘の使い方知らへんの?
落ちる寸前、俺は傘を開いた。
バッッ
傘は音を立て勢いよく開き、先を掴んでいた幽霊は跳ね返るようにして、暗い湖へ落ちていった。
それからもう、出てくることはなかった。
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