できそこない

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 教室に入ると、誰もいない安寧と静寂が天井の隅から隅まで広がり、床にまで降り注がれているように見えた。教室全体が白っぽく靄がかかったようで、少しひんやりと肌寒く感じられる。  毎朝一番乗りで教室内に足を踏み入れるのが日課だったが、こんなに白く濁った教室を見るのは初めてだ。本来なら心安らぐ貴重な時間であるが、今日ばかりは胸がざわつき一抹の不安を覚えた。  僕はカバンを机の横にかけ、いつものようにトイレへ行き、教室に戻ってくると数学などの問題集を机の上に広げ勉強を始める。  予習復習は家で十分にやっているので、小テストの勉強をしたり、英単語の勉強をしたり、授業ではやらないような問題を解くためにノートを開く。  このとき、僕以外の生徒はまだ教室にいない。だいたい数人が話しながら一緒に教室に入ってくるので、おはようの挨拶をすることも稀だった。稀だったが、全くないわけではないので、常にどこかで意識しながらぎこちなく椅子に座っていた。決してそれがいやというわけでもなく。  教室中に人が充満したころようやく顔を上げると、ちょうど先生が教室に入ってきた。いつの間にか先ほどの白っぽい靄で不安だった気持ちをすっかり忘れてしまっていた。  
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