ハニーメモリー

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「見て見て~!ここチョーきれいじゃない」 満開の桜に向かって、女子高生達が俺を追い抜いて通りすぎていく。 満開の桜を見上げると、あいつとの思い出がよみがえる。 君は、今年の桜は誰と見たんだろう… 「今日、行きたい所があるんだぁ」 まだ菜月と付き合いだして1ヶ月と少し、3回目のデートで桜を見に行った。 「たこ焼き食べながら見る?」 たくさんの屋台の中から俺が提案した。 「私はりんご飴がいいな」 「そか、じゃあ両方にする?」 「うん、でも青のりついてたら…教えて…ね」 もぉめちゃくちゃ可愛い~って、この子をずっとずっと大事にしようって思ってたのに… 付き合って2回目の桜の時期が終わる頃に、菜月と一緒に暮らし始めた。 お揃いの食器がたくさん増えた頃には、俺はよく仕事や友達の付き合いだとかで、夜明け前に帰っていた。 玄関を入ってすぐの洗面所の電気を、遅くなった日は必ずつけておいてくれていた。 真っ暗にならない様にしてくれてたんだろう。 理由はもう聞けないけど… 同棲をしてから2回目の桜の季節に、俺は年下の同僚と仲良くなっていた。 「今日も遅くなる」 「うん。あんまり飲み過ぎないようにね」 菜月は朝の支度中に、少し手を止めて返事をした。 もう、「誰と?」とも聞いてこなくなった。 もしかしたら、浮気はバレてるかもしれない。 でも、菜月は俺に何も聞いてこない。 このころにはケンカもしなくなった。 今日も洗面所の電気だけがついている。 「もう、このままは無理だから、別れよう」 付き合って5回目の桜の季節がもうすぐという頃、菜月から切り出された。 こんな俺でも、菜月は待っていてくれてると思い込んでいた。 大丈夫だろうと高を括ってていた。 「けんちゃんといると、心臓が5個くらいないと笑ってられない」 泣かないように、指で瞼をおさえる菜月は最近よく見てた。 見てたけど、見ないようにしてた俺と違って、菜月には強くなるための仕草だった。 俺は何も言えず、いつの間にか流れ落ちていた涙と鼻水で「ごめん」としか言えなかった。 自分から落ちてくる涙は、自分でもどうしようも出来ないくらいあふれでた。 一人になった今は、あの時感じた後悔や、情けなさや、自己満足や、身勝手さや、申し訳なさも全部未練となって今も押し寄せてくる。 最近は、飲みにもいかずおとなしく家に帰っている。 でも、誰もいない部屋で夕飯を食べても何の味もしなくなった。 一緒に選んだコップを使うと、あの日の君の笑顔を思い出してしまう。 一人でこの部屋にいた君には、いつも悪いなって思っていたよ。 でも、あの時はなかなか素直になれなかった。 君は、今年の桜は誰と見たんだろう。 終わり aiko ハニーメモリーより
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