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硬直したように立ち尽くす私に追い討ちをかけるように電気が消えて思わず叫ぶも喉を締め付けられたような掠れた声しか出ない。
普段ならカーテンを透かして射し込んでいるはずの月明かりすらない部屋の中は冥闇としか言いようがなく何も見えない。
──こんな時に停電?それとも……あの女が?
パニックに陥っている私に冷静な判断が出来るはずもなくスマホの明かりを頼りに壁伝いに玄関へと向かうも突然ドンッと突き飛ばされる。
声をあげる間もなくフローリングに叩きつけられ痛みと恐怖で動けない。
息を潜めてじっと耳をすませていても物音ひとつしないけれどたしかに何かが近くに居るという気配だけは感じる。
──どうやって入ってきたの……
間違いなく鍵をかけていたはずでアヤという女が何かを使って玄関ドアを開けたなら直線上に立っていた私が気付かないとは思えない。
──反撃をしなければ、何をされるかわからない……
そう思った私は痛む体を静かに起こし手探りで床に触れながら武器になりそうな物を探しているとミシッという音が傍で聞こえて咄嗟に身構えたものの一瞬で壁に叩きつけられ呻き声をあげる。
いとも容易く投げつけられ女の力とは到底思えないけれどこのままでは殺されてしまうかもしれないという恐怖が動かない体に鞭を打つ。
自分が立っている場所さえはっきりしないけど手に触れた物を手当り次第に投げながら玄関であろう方向を目指すも背中を突き飛ばされる。
──真っ暗なのに……何で見えてるの……
全身に激痛が走り動けない私を嘲笑うかのように呼吸もままならない体を仰向けにされグイッと首を絞めあげられる。
喉にくい込む長い爪が女だとわかり抵抗しようと必死に藻掻くものの首を絞めている人間にあるはずの腕すら掴めない。
ドクドクと圧迫された血管が脈打ち意識が遠のきそうになりながらも最後の力を振り絞って手に触れた物を女に投げつける。
切り裂かれたクッションなんて何の効果もないに等しいけれど一瞬だけ力が緩んだ気がして這うようにして女の下から逃げた私は激しい咳き込みながらも真っ赤な目と目が合った瞬間声を限りに叫んだ。
「いやぁぁぁっ!!」
ベランダからガシャンとガラスが割れるような音が聞こえ恐怖で体が竦んでしまった私はガタガタと震える事しか出来ない。
「弥生っ!」
「木下さん!」
聞き慣れた優里の声にハッとした私が顔を上げると砂のような何かが頭の上から降ってきてびっくりして飛びのくも再び降ってくる。
「ゆ、優里?」
「ごめんね、もう大丈夫だと思う」
その声に応えるように電気がつき隣の人と優里の姿が見えてホッとする。
「遅くなって、ごめんね」
抱きついた優里の手には何故か白い粉のようなものが握られていて余程ひどい怪我に見えるのか隣の人が気遣わしげに口を開いた。
「あの、警察呼ばなくていいんですか?」
「すみません、大袈裟にしたくないので……」
「なるほど……そうですか。じゃあ、私はこれで。」
「協力して下さって、ありがとうございました」
優里と隣人の会話を他人事のように聞いていた私は笑顔で会釈してベランダから帰ってゆく姿を見送りながら気を失った。
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