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「どうも、こんばんは、鈴木です」
「どーもー」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「どうぞー」
「……手紙の件で」
「手紙?何の?」
「そちらからの」
啓介が一瞬黙った。沈黙の後、啓介の声のトーンが低く変わった。
「……どんな」
「私と付き合えないとか、なんとか。もともと、そんな感じじゃなかったと思ってたから」
啓介がまた、黙った。電話の向こうで、ためらう息遣いがした。それから、さらに重い声が言った。
「……その手紙を書いたのは、俺じゃない……」
先週のことだ、と、啓介は説明を始めた。
啓介はその日もひとり、コンビニの弁当を手に、アパートの部屋の鍵を開けた。
入るなり冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出し、脱ぎ散らかした服を足でよけ、その上にさらにネクタイとスーツを放り投げ、小さなテーブルの前に胡坐をかくと、テレビのスイッチを入れた。
静かだった六畳一間の部屋に、バラエティ番組のわざとらしい笑い声が響いた。
弁当を広げ、その中の唐揚げ一つを半分かじり、飲み込んだ時だった。
何かが見えたり聞こえたりしたわけではない。
けれど、ふいに啓介は感じた。
……部屋の空気に、いつもと違う気配が混じっている。
気のせいだ、と、その感覚を振り払おうとしたが、一度そう考えるとどうも落ち着かない気分になった。
啓介は食べかけの唐揚げを弁当に戻し、周りを警戒するように立ち上がった。
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