黒い隙間

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 まず初めにトイレのドアを開け、次に、風呂のドアを開けた。  怪談では、たいていこの二か所に得体のしれない何かが潜んでいるものだ。啓介もまずそこを調べた。けれど、どちらにも変わった様子はない。  トイレットペーパーも、朝使った時からぐんと減ったようには見えないし、風呂場の床もカラリと乾き、誰かが使った形跡はない。  気のせいだったか、と啓介は部屋へ戻った。  六畳の、部屋。  その隅に、啓介が衣替えの時にしか開けない押し入れがある。  啓介は、その襖を見て、あれ、と訝しんだ。  もともと、自分はきっちりした性格ではない。戸をしっかり閉めないなんて、よくあることだ。  けれど、そのほんの少し、黒い線が引いてあるような隙間はまるで。そう。  中からこちらを伺っているような。  啓介は、まさか何もいないよな、と、もしいたらどうしよう、を行きつ戻りつ、菜摘が封筒を開けるのを我慢できなかったように、その取っ手に手をかけ、おそるおそる動かした。  いた。
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