5人が本棚に入れています
本棚に追加
まず初めにトイレのドアを開け、次に、風呂のドアを開けた。
怪談では、たいていこの二か所に得体のしれない何かが潜んでいるものだ。啓介もまずそこを調べた。けれど、どちらにも変わった様子はない。
トイレットペーパーも、朝使った時からぐんと減ったようには見えないし、風呂場の床もカラリと乾き、誰かが使った形跡はない。
気のせいだったか、と啓介は部屋へ戻った。
六畳の、部屋。
その隅に、啓介が衣替えの時にしか開けない押し入れがある。
啓介は、その襖を見て、あれ、と訝しんだ。
もともと、自分はきっちりした性格ではない。戸をしっかり閉めないなんて、よくあることだ。
けれど、そのほんの少し、黒い線が引いてあるような隙間はまるで。そう。
中からこちらを伺っているような。
啓介は、まさか何もいないよな、と、もしいたらどうしよう、を行きつ戻りつ、菜摘が封筒を開けるのを我慢できなかったように、その取っ手に手をかけ、おそるおそる動かした。
いた。
最初のコメントを投稿しよう!