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野盗に追われ弥兵衛が逃げ込んだ洞穴は、村を流れる川が山間の谷川となり、山を二つ、三つ回り込んだ辺りから、脇の谷筋へ踏み込んだ所にある。人一人が横になりやっと通れるほどの狭い入り口をすり抜け、転がっている大石を避けて一丁も奥へ進むと少し広がった所にたどり着く。昔からこの洞穴に入り込んだ者は、再び外へは出られないとの村での言い伝えがあり、普段は近づく者はいなかった。たまに近づく者があっても、洞穴から時折聞こえる轟音に恐れ、直ぐに立ち去っていた。こんな洞穴であっても、野盗に襲われ一家皆殺しを果たそうとする頭の狙いから逃れるためには致し方なかった。弥兵衛を追って来た男達が洞穴の入り口で屯し、頭の指示を待っている時、奥から崖崩れのような轟音が響き渡って来た。この音に洞穴の崩落と思った頭が、男達を連れて立ち去って行った。洞穴の奥では耳を両手で塞ぎ堪え忍んでいた弥兵衛は、その場に倒れ込んだ。
何時が過ぎたであろうか、頬を掠めるような衣擦れに目を覚ました弥兵衛は、暗闇の中で微かな明るさを持つ亡霊のような姿を見ている。これが現実なのか、それとも夢寐なのか、疲れが溜まり過ぎた頭脳では判別出来ないでいる。そのような時、長い白髪を両肩に垂らし、白衣を羽織った老人が、胡坐を組み空中を漂いながら声を掛けて来た。
「お前は、何故ここへ来た」
その発せられる言葉に、弥兵衛はまどろみを覚えながら答えている。
「野盗に酒席を襲われ、わしの一家は皆殺しにされた。わしは、奴らの囲みの隙を見て逃げて来た」
「先ほど表におった連中が、その野盗か」
「わしを追って来た野盗だ」
「そうか。それでお前は、これから如何にするのか」
「わしの願いが叶うなら、村を守るためにも奴らを全て始末したい」
「お前は、幾つになる」
「十三だ」
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