闇の剣士 剣弥兵衛(一)

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 言い残した弥兵衛は、店を離れ山木の後を追って国境の浅木村に向かった。その足は天馬の如く、馬に乗った山木に忽ち追いついた。後ろをつけると山中に入り山間の棲家では、篝火を燃やした空き地に七、八人が迎えに出ていた。その空き地に立ち入った弥兵衛は、抜き放った刀で山木を指し示した。 「親の仇敵となる山木伝兵衛、私は剣弥兵衛だ」 「何だ、お前は。村年寄の倅に似ておるが」 「その通りだ」 「えっ、あの洞穴で生きておったか」 「仁は人の道なり。これに背くは許せん」  言い放った弥兵衛は、身を独楽の如く回し始めた。周りの男達が山木の前に出て刀を抜いており、回転が頂点に達した時、刀を横に出し薙ぎ払いに掛かった。風神の魔剣であり、立ちどころに男達が切り伏せられていた。これを見ていた山木が及び腰で刀を構えたが、飛び上がった弥兵衛は降りしなに刀ごと袈裟斬りにした。我ながら凄まじい技と感じつつ弥兵衛は、夜空に向かい感謝を込めて闇星の剣を投げ上げた。すると、揺れるような動きをして姿を消し去っていた。  村に戻ると一家の葬儀を済ませてくれていた村人に礼を述べ、野盗の始末と代官の処置を知らせた。そして、念願成就を不動へ告げるため、弥兵衛はあの洞穴に向かっていた。
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