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あたふたと家内に入った主が差し出したのは、銀銭の束と京で名の知れた絵師の銘が書かれた掛け軸の木箱であった。それを馬の横で控えていた男が確かめ、馬上の男に目配せを送った。
「よし世話をかけた。次に行くぞ」
馬の手綱を引き村道へ出た男に続く野盗の一団が、次に目星を付けていた農家へ向かった。再び火付けで脅し金品をせしめると、弥八郎が見つめる前に集来して来た。
「おー、手回し良く待っておったか」
馬上の男が吼えた。
「何の手回しが良いのか、さっぱり判らぬが」
弥八郎は男を睨み付けた。
「貴様は、我等に抗う気か」
「そうとなれば、如何するのか」
馬の周りにいる四人の男が、すかさず刀を抜いた。
「山住様、お願いします」
弥八郎は屋敷に向かって叫ぶと、走り出て来た三人の浪人が弓に矢を番え馬上の男に狙いを定めた。
「何だ、お前らは」
叫び声を上げる馬上の男の背後から、別の声が掛かった。
「この辺りの村を荒らす野盗とは、お主らか」
野盗らが振り返ると、そこには更に二人の浪人が弓を手にしていた。
「さあ、脅し取った品物を置いて、帰ってもらおうか」
後ろにいる浪人の一人が、矢を放った。矢は金品を手にしていた男の首をかすめて馬の尾を射抜き、数本が矢風に揺らいだ。
「ひぇー」と、けたたましい声を発した男が、金品を手放し逃げ去っている。他の男もこれに倣って逃げ始めると、嘶いた馬を宥めた馬上の男が「覚えておれ」と言い放ち、馬を返して立ち去って行った。
野盗が捨て置いた金品を拾い集め、弥八郎に渡した山住が矢を放った浪人に対した。
「砂橋殿、二物を狙うとは、さすがの弓術の腕にございますな」
「いやいや、これは山住殿が野盗どもを押さえていたお蔭にございます」
「お二人とも、そんな立ち話は無用にして当家にお入り下さい」
弥八郎は、残り三人の浪人の顔も伺いながら、屋敷へと誘った。
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