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山住と砂橋が表に出た。先に出ていた三人が虫の息となり、虚ろな目でこちらを見ている。すると直ぐに数本の矢が射られ、山住が抜き放った刀で、砂橋が弓で叩きおとした。
「手出し無用」
山木が叫んだ。そこで前に進んだ砂橋が、山木と七間(13m)ほどの間合いで対峙し、矢を番えた弓を構えた。刀の鯉口を切る山木の額に向かって矢が放たれた刹那、山木が抜刀し下から上へ、これを両断した。振り上げた刀を肩に担ぎ、素早く砂橋に走り寄り、防ごうとした弓もろとも切り裂いた。肩口から噴出する血に染まり、倒れ込んだ砂橋を見て、山住が抜いていた刀を正眼に構えた。間合いを図る山住と山木に、先程まで静まっていた蛙の鳴き声が騒がしく届いている。
「ここだ、ここで逃げろ」
二人の対峙に集中している野盗を見て、弥八郎が弥兵衛に言った。流れ出る涙を拭わず裏口を出た時、カキンと鋭く響く金属音を聞いた。続いて獣の咆哮に似た声を聞いた後、聞こえて来たのは屋敷内で騒めく悲鳴や断末魔の声であった。体が震え、暫く動くことも出来ずにいた弥兵衛は、裏木戸を抜け川沿いの道に出た時、姿を見られてしまった。そこから遮二無二に走り、着いた所がこの洞穴であった。
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