中山道宿場町珍事譚

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 気がつくと、僕は家のソファーで横になって寝ていた。服は、着物でなく小学校の体操着。元の時代に戻っていた。  次の日の運動会、僕は馬鹿みたいに走った。徒競走は最下位だったけれど、リレーはバトンパスが上手くいった。その上、僕は途中でひとり抜いたらしく、最下位はまぬがれた。走っている間の記憶がないのが恐ろしい。走るのに夢中になっていたようだ。  あのときの体験が本当にタイムスリップなのかは、結局わからない。  江戸時代のような本庄の街並み、火事の現場、水の冷たさ、原田さんの言葉と大きな手……どれも実感したが、夢だと言われてしまえば、それまでだ。  そういえば、目が覚めたとき、僕は小銭を握っていた。四角い穴の開いた、綺麗な硬貨だ。  僕は小銭の穴に紐を通し、お守りとして財布に入れておくことにした。  これのおかげで「頭を(から)にして夢中になれる」自分になれたと思いたいから。  【終】
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