中山道宿場町珍事譚

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中山道宿場町珍事譚

 運動会の前の日なのに、僕はタイムスリップをしたのかもしれない。  昭和の雰囲気のある呑気な街並みは、時代劇の江戸時代のような木造建築ばかりの街並みへと変わってしまった。電柱も自動車もなく、馬や人がにぎやかに行き交っている。その人達は、洋服ではなく着物を着ている。かく言う僕も、小学校の体操着ではなく、すり切れた着物を着ていた。  僕のいる埼玉県本庄市は、一瞬で、中山道の本庄宿になってしまった。 「おい、坊主。どうした?」  急に声をかけられ、肩を叩かれた。叩かれた方を見上げると、背の高い男の人が僕を見おろしている。なぜか怖くはない。町の人とも侍とも違う個性的な恰好をして、槍を持っている。 「坊主、悩みなんかおんぶしてないで、この(にいちゃん)に話しちまいなよ。お父ちゃんやお母ちゃんには言いづらいんだろ?」  意外と察しが良い。男の人は、図体の割に整った顔をしているが、それを崩すように、にかっと笑った。 「俺は原田ってもんだ。よろしくな」
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