中山道宿場町珍事譚

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 本当にタイムスリップしたかは定かではない。それに、話したところで信じてもらえるわけでもない。もうひとつの目下の悩みを原田さんに聞いてもらうことにした。  原田さんは「団子をおごる金もない」と苦笑いし、「へそくりにとっておけ」と小銭を1枚くれた。四角い穴の開いた、綺麗な硬貨だ。  近くの路地に、材木が積まれたところがあった。原田さんと僕はそこに腰を下ろした。  僕の悩みは、明日の運動会のことだ。僕はとにかく運動神経が鈍い。僕の組は毎年ぼろぼろに負けてしまう。明日は小学校生活(“小学校”は“寺子屋”に言い換えた)最後の運動会だ。そう思うと憂鬱で仕方がない。  それを聞いた原田さんは一言。 「阿呆(あほ)か」  僕は生れて初めて阿呆と言われた。“馬鹿”は何度もあるけれど。 「うじうじ考えるから走れねんだよ。子供(がき)子供(がき)らしく、がむしゃらにやってみろ。頭を(から)にして夢中になれるのは、今しかないんだぜ」  僕は、とりあえず頷いた。原田さんの理屈はよくわからない。でも、最後の言葉は心に引っかかった。  頭を(から)にして夢中になれるのは、今しかない。  原田さんは、仲間らしき侍の人と一緒にどこかへ行ってしまった。  僕は行くあてもなく道をぶらぶら歩くことにした。僕の知っている本庄とは全くもって違う。  偶然、ある場所に着いた。そこは意外にも、ほとんど変わっていなかった。  そこは、僕のお気に入りの場所だ。
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