中山道宿場町珍事譚

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 日が暮れてからは、雨風しのげそうな所に隠れて眠った。  どれくらい経ったのかわからない。騒がしい声と音で目が覚めた。  騒ぎの原因は、すぐにわかった。火事だ。正しくは、建物火災。大勢の人が野次馬に出ている。僕はその中から原田さんを見つけた。 「原田さん! どうしたの?」 「おお、坊主か。俺にもよくわからん。芹沢さんて人が店に火をつけたらしい。今、近藤さんがなだめに入っているんだが……こなくそ!」  このままでは、火が広がってしまう。この時代に消防車はない。火消は建物を壊して火が広がらないようにするだけだと聞いたことがある。  運動神経が鈍く利口でない僕だけど、火を消さなくてはいけないことくらい、わかる。 「原田さん、ついてきて!」  僕は、原田さんを“お気に入りの場所”に案内した。そこは、火事の現場に近い水路だ。周りに草木が生え、川のような雰囲気がある。水量も、そこそこある。 「坊主、でかした! 何か汲むもの借りてくる!」  原田さんの行動力のおかげで、たくさんの人に協力してもらうことができ、バケツリレーのように水を運んだ。原田さんなんか、水がいっぱい入った樽を抱えて走ったりして、パフォーマンスのようになっていた。さすがに水路の水だけで火を全て消すことはできなかったが、「大火事にならなくてよかった」と周りの人は話していた。  僕は、考えていなかった。火を消すこととお気に入りの水路が同時に思い浮かんで、気がついたら水を運んでいた。  そうか。これが「夢中になれる」ということなのか。 「夢中になれるじゃねえか、坊主。明日のもこの調子で出来そうだな!」  原田さんは、大きな手で僕の髪をぐしゃぐしゃに掻き回す。  僕は急に疲れてきて、まぶたを開けていられない……。
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