耳煩いの詩

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耳煩いの詩

08cd609b-e45a-43e0-a233-376363657242   大海を渡る白鳥の歌   大地を走るコヨーテの歌   宇宙を巡る彗星の歌   成功者たちの乾杯の歌   胸の奥から沸き立つ愛の賛歌   そして努力を怠らぬという才能こそ   今の僕にとって最大の宝物   小さな教室で聴いたあのイヤな音を覚えているか?   あれはたぶんキミの大切な友が殴られる音だったのだろう   ガキ大将が威張る井戸の中の現実なのさ   ここはいつだって狭苦しく、ゆえに僕の耳は腐りついたのだ   英雄に憧れる社会人   人並の生き方を選ぶ自由   人並以下の生活を望み   人並以上の愛情で   君と僕との懸け橋が生まれる   やがて夕暮れに沈むふたつの影は   欄干の上で交わる美しさかね   深い深い井戸の底で見上げた空に詩を捧げる   イヤな音ばかりが反響するから俺は泳ぐのも退屈になって   そして新しい言葉ばかりを欲しがる馬鹿になったのだ   『ねぇ、一緒に外に出よう?』 恋人に誘われるこの夕暮れ   蛮勇の獄舎へ向かう足先で黄緑色に光る鈍い液体   それは決して楽な道のりではない   しかしそれが僕たちの道標である以上   たとえ大きな障害に身を奪われたとしても   浪漫の枝に心をぶら下げたまま前進するのだ   大海を渡る白鳥の歌   大地を走るコヨーテの歌   宇宙を巡る彗星の歌   そして、君と僕との間に生まれた   耳患いの世界に捧げる大いなる讃美歌
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