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──Side 隆平
──やばいな。エプロン姿、すっげえ可愛い。
気がつけば、立体感のあるひらひらした袖から伸びる腕に釘付けになっていた。キッチンからは食欲をそそる匂いが溢れ、真剣な顔をした高瀬が忙しなく、しかし手際よく準備をこなしている。
「なんか、手伝う?」
ずかずかと入っていくのも気が引けるので、リビングとキッチンの境目に立って声を掛けてみた。ちょうど冷蔵庫の真前だ。
調理台には調味料がいくつも並んでいる。縦開きのオーブンレンジは、ひとり暮らしにしては大きなものだ。整理されてはいるが、水切りラックに伏せられた数々の調理グッズやガスコンロの些細な汚れで、彼女がいかにキッチンを使い込んでいるかが分かる。
「じゃあ、このお皿持っていってくれる?」
対面カウンターに並んだふたつの皿に盛られているのは、生姜の千切りを豚肉で巻いたもの。端に添えられたレタスとミニトマトが鮮やかだ。
「入って、いいのか?あ、そっちから取ればいいのか」
「どうぞ。狭いところですけど」
白地に青い小花柄のエプロンをつけた高瀬が、俺を見て照れたように笑う。タッパーに詰められたカラフルな野菜たちを小鉢に移しているところだったらしい。これが、夏野菜のマリネ、ってやつだろうか。
「すげえ、うまそう」
「今回は味つけがうまくいったの。ひと晩余分に寝かせたから、味が染みて……」
相変わらず狭い背中を無性に包みたくなって、背後からぎゅっと抱きついた。小さな手から菜箸が滑り落ちる。ちょっと、と振り向いた隙に唇を奪うと、ほんのりと塩辛い味がした。
「も、やだ、突然」
「……しょっぱい」
「さっきお味噌汁作ったとき、味見したから」
ふいっと顔を逸らされたけれど逃すものか。サボンが香るさらさらの髪にキスをして、腕に力をこめる。本当に、すぐにでも折れてしまいそうな──細くて頼りなくて、柔らかくて儚い。この感触が高瀬だ。
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