#7 恋に落ちる真夏の夜更け

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──Side 隆平  許されたのかはいまでも分からない。そして、それを知る術はない。次に顔を合わせたとき、俺たちはなにを話すのだろう。幸せそうに笑っているあいつを、心から祝福することはできるのだろうか。 「あの……嫌なら、」 「いや、今度話すよ」  考える前に答え、ごまかすように残った白米をかき込んだ。腹はもう十分に満たされている。皿はどれも、ほとんど空だ。 「いいの?」  奥二重の澄んだ瞳に見つめられ、心臓が誤作動を起こしたように苦しくなる。その細い腕を掴んでこちらに引き寄せたくなった。まただ。また、無理やりにでも自分のものにする妄想が頭をよぎる。 「ああ。ドン引きされるかもしれねえけど」  甘酸っぱさと苦さが同居していた初恋を終え、俺は女を幸せにできるタイプではないのだと悟った。その証拠に、あいつと別れてからは誰と付き合っても続かなかった。やがて、顔だけは好みの女と身体だけの逢瀬を重ねるようになった。 「そんなにひどいことしたの?」 「まあ、な」  ふうん、と肉巻きを口に運ぶ姿に見惚れそうになる。女性が食事をする姿を綺麗だと感じるのは、高瀬が初めてだ。  好きな人を傷つけておきながら、未練がましく忘れられなかった情けない自分を知られるのが怖い。その反面、高瀬になら知ってほしい、とも思う。それがなぜなのか、理由はもう、探さずとも出ているような気がする。 「じゃあ、初恋の人に感情移入して、怒っちゃうかもしれないけど」  魚の形をした箸置きに箸を並べ、高瀬が俺の顔をまっすぐ見据えた。 「ドン引きしたとしても、知っていたいの。東が、すごく大切にしているものでしょ」  話したいと思ったときに話してね、とはにかんだように微笑まれ、心臓を矢でひと突きされたような心地がした。 苦しくて息ができない。心に空いた大きな穴に、好きだ、という三文字が確かな質量を持って落ちてきた。
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