#7 恋に落ちる真夏の夜更け

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「隆平くんは、なんだと思う?つばきの隠しごと」 「さあ」 「えー、隆平くんならわかると思ったのに」 「知らねえよ。ほら、終わったぞ。待ってたんだろ?」  よそ行きの声に胸がざわざわする。静まり返った廊下に、心臓の音が響き渡ってしまいそう。靴の底が張りついたようにそこから動けずにいるうち、ふたりの会話は進んでいく。 「あまりにも聞きたいって言うから引かれてるのかなぁ。それとも、頼りない?」 「さあな。高瀬って、あんまりそういう話できゃーきゃー騒ぐタイプじゃないんじゃねえの」 「恋バナで盛り上がらない女子なんていないよ。だから、つばきの話も聞きたいのに」 「そのうち話してくれるだろ。じゃ、俺は行くわ」  革靴の足音が近づいてくることに気づき、とっさに辺りを見回す。ここに立ち尽くしていたら、盗み聞きしていたことがバレてしまう。向かいのトイレに身を潜めようか。 「ね、隆平くん。つばきに言ってもいい?」  後ずさりしようと足をずらしたとき、相変わらずの高い声が耳に刺さった。調子はさっきと一緒。あるいは、少し媚びているような。 「……は?」 「やだ、顔怖い。冗談だよ」  今日のお弁当も美味しそう、と笑うときと同じ声。もう一度身体が固まる。いまのわたし、なんて滑稽な格好をしているんだろう。
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