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──Side 隆平
全身鏡が掛かっている壁の向こうで、水の流れる音がした。シャワーを浴びているのだ。しがない妄想が頭の中で具体化して、己の中心部がすぐさま反応する。
りんご飴をちらちらと舐めて、嬉しそうに俺を見上げる顔。細い首筋に浮かぶ小さな汗の粒。夏の湿気と混じり合った、清潔感のある甘やかな匂い。決して高くはない涼しげな声。淡白なようであたたかい言葉遣い。
好きだ。あいつの持っているもので、俺が知っているもの、すべて。これから知らないことを知れば、きっと、もっと好きになる。
明日は八幡坂に行ってみようね、と別れがけに言われたことを思い出す。夜景ではなく坂を選ぶところが高瀬らしい。坂の上から街を見下ろしてみたいの、と微笑まれた瞬間、その細っこい手首を掴んで部屋に引き入れたくなった。
「付き合ってほしい、とか言ったら……キモいよな」
当たり前のように隣にいたい。触りたいし、それ以上のこともしたい。あいつの作った飯を食いたいし、一緒にキッチンに立ってみたい。自分が女だってことを無理やり自覚させてやりたい。女としての魅力がないなんて二度と言わせない。
あのクソあざとい無自覚女を、いったいどうしてやろう。俺のものになってほしい。おまえを独り占めしたい。引かれてもキモくても、そう伝えていいだろうか。
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