#7 恋に落ちる真夏の夜更け

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「ご飯、は?」 「飲みたいならこっちに戻ってきてからにするか?まあ、向こうで適当に食べてもいいし」  最後に訪問した企業は五稜郭タワーの向こうだったが、意外とホテルに近かったらしい。提携駐車場となっているコインパーキングに車を入れ、彼はホテルの中に消えていった。スーツの上着とビジネスバッグを部屋に置くという。  ──今日、もしかしたら、もしかするかな。  こんなチャンスは二度とない。昨日からずっと、そう思っている。今回の出張で言えなかったら、この気持ちは闇に葬り去ることになる。そんな気もしている。  茉以子の言葉が頭を過ぎる。東との秘密。わたしへの隠しごと。それがなんなのか、知りたいけれど知りたくない。だけど、「好き」って言う前にはっきりさせたい。もし本当に東と茉以子がそういう仲(・・・・・)なら、そこに割って入るわたしはただの邪魔者になってしまう。  誰にも本気にならない東に告白しようとしているなんて無謀だ。頭では分かっていても、身体はやっぱり言うことを聞かない。彼のもっと近くに行きたい、切実にそう願っている。 「悪い、待たせて」  返事をする前に手を取られ、えっ、と口から滑り出る。「嫌なのかよ」と顔を顰められ、慌てて首を振った。 「昨日一緒にいて思ったけど、おまえ、意外と危なっかしいから」  こんなに暑い中、絶対に離さないからな、と言わんばかりに強く握られているのに嫌じゃない。こんなの、少しも自惚れないほうが無理だ。
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