#7 恋に落ちる真夏の夜更け

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「東がわたしをそういう目で見てないのも分かってた。だから、必要以上に好きになりたくなかったし、付き合いたいなんて考えたこともなかった」  つるりとした顎を撫でながら「そんな」とか「嘘だろ」と繰り返す彼の頬を、両手で挟み込むように叩く。 こっちは、告白なんか生まれて初めてなんだっていうの。心の中で吐き捨てるように言って、憎らしいくらい可愛い顔を睨みつける。 「おい、普通に痛いんだけど」 「嘘でこんなこと言わないよ。そっちこそ嘘じゃないの。信じられない」 「あのな、こんなマジで告白したの初めてだぞ。俺のクソみたいな女遍歴を舐めるなよ」 「威張ることじゃないでしょ」  最悪、と目を逸らすと、すぐさま腕の中に収められた。あまりの力強さに少しの身じろぎも許されない。「マジで言ってる?」──耳元に吹き込まれた切実な声に、小さく頷いた。 「おまえ、いつも俺に怒ってなかった?仕事中でも飲み会でも」 「いつまで経っても諦められない自分に腹が立ってたの。体よく振り回されてるなあって」 「なに言ってんだよ。振り回されてんのは俺のほうだろ」 「わたしがいつ振り回したっていうの」 「出たよ無自覚。やめろよそれ、他の男には絶対やるなよ。タチが悪い」 「昨日からそんなこと言ってるけど、全然意味わかんな……」  
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