#7 恋に落ちる真夏の夜更け

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 無理やり言葉の続きを吸い取られた。坂を登る前から繋がれていた手はやっぱりそのままで、もはやどちらの汗か分かったものではない。 「好き?」「うん」「俺も」──唇をねじ伏せられるような感触に、降参だ、と思った。大きな手が背中を優しく撫でていく。薄手のブラウスを着ているせいで、指の動きひとつにさえも過剰に反応してしまう。  ふと、「あらぁ」といやに間延びした女性の声のあとに、邪魔しちゃ悪いでしょ、と柔らかく窘めるような声。そうだ、ここ、外。しかも、超有名観光スポット。こんなところで抱き合ってキスするなんて、景観破壊も甚だしい。 「恥ずかしい。離して」 「やだ」  鍛えた身体の使い方、間違ってますから。そう突っ込みながら厚い胸板を押し返すけれどびくともしない。それどころか、「あんまり動いたら折れるぞ」なんて呑気に言うから腹が立つ。 「肉もそれなりについてるから折れません。ねえ、わたしたち、曲がりなりにも仕事で来てるよね」 「だな」 「こんなところ、万一誰かに見られたらまずいから。離してってば」 「じゃあ、どこで続きすんの」  ねだるように甘く囁かれ、全身に鈍い痺れが走った。口籠もったわたしをからかうように、「なあ、どこですんの?」と追い討ちをかけてくる。 極めつけは、ブラジャーのホックの辺りを弄ぶように動いている指──これ、絶対にわざとだ。
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